彖伝
大哉乾元。萬物資始。乃統天。雲行雨施。品物流形。大明始終。六位時成。時乘六龍以御天。乾道變化。各正性命。保合大和。乃利貞。首出庶物。萬國咸寧。
【大いなる哉(かな)乾元(けんげん)。萬物資(と)りて始(はじ)む。乃ち天を統(す)ぶ。雲行き雨施(ほどこ)し。品物(ひんぶつ)形を流(し)く。大いに終始を明らかにし。六位(りくい)時に成る。時に六(りく)龍(りゅう)に乘りて以て天を御す。乾道變化し。各々性(せい)命(めい)を正しくし。大和を保(ほ)合(ごう)す。乃ち利貞なり。首(しゅ)として庶物(しょぶつ)に出でて。萬國咸(ことごと)く寧(やす)し。】
至哉坤元。萬物資生。乃順承天。坤厚載物。德合无疆。含弘光大。品物咸亨。牝馬地類。行地无疆。柔順利貞。君子攸行。先迷失道。後順得常。西南得朋。乃與類行。東北喪朋。乃終有慶。安貞之吉。應地无疆。
【至れる哉(かな)坤元(こんげん)。萬物資(と)りて生ず。乃ち天に順承(じゅんしょう)す。坤厚くして物を載す。德无疆(むきょう)に合う。含(がん)弘(こう)光(こう)大(だい)にして。品物(ひんぶつ)咸(ことごと)く亨(とお)る。牝馬は地の類。地を行くこと疆(かぎ)りなく。柔順利貞は。君子の行う攸(ところ)なり。先んずれば迷いて道を失い。後れれば順(したが)って常を得。西南に朋を得。乃ち類と行くなり。東北に朋を喪う。乃ち終に慶び有り。安貞の吉は。地の无疆(むきょう)なるに應(おう)ず。】
屯。剛柔始交而難生。動乎險中。大亨貞。雷雨之動滿盈。天造草昧。宜建侯而不寧。【屯は。剛柔始めて交わり難生ず。險中(けんちゅう)に動き。大いに亨りて貞。雷雨の動くこと滿(み)ち盈(み)てり。天造草昧(てんぞうそうまい)。侯(きみ)を建(た)つるに宜しくして寧(やす)しとせず。】
蒙。山下有險。險而止。蒙。蒙亨。以亨行時中也。匪我求童蒙。童蒙求我。志應也。初噬告。以剛中也。再三瀆。瀆則不告。瀆蒙也。蒙以養正。聖功也。
【蒙は。山の下に險(けん)有り。險(けわ)しくして止まるは。蒙なり。蒙の亨(とお)るは。亨ることを以て行きて時に中すなり。我童(どう)蒙(もう)を求むるに匪(あら)ず。童蒙我を求むとは。志し應ずるなり。初噬すれば告ぐ。剛中を以てなり。再三すれば瀆(けが)れ。瀆れるときは則ち告げず。蒙を瀆すなり。蒙は以て養うこと正し。聖の功なり。】
需。須也。險在前也。剛健而不陷。其義不困窮矣。需有孚。光亨。貞吉。位乎天位。以正中也。利涉大川。往有功也。
【需は。須(ま)つなり。險(けん)前に在るなり。剛健にして陷いらず。其の義は困窮(こんきゅう)せず。需は孚あれば。光(おお)いに亨る。貞なれば吉。天(てん)位(い)に位す。正中なるを以てなり。大川を涉るに利ありとは。往けば功有るなり。】
訟。上剛下險。險而健訟。訟有孚窒。惕中吉。剛來而得中也。終凶。訟不可成也。利見大人。尚中正也。不利涉大川。入于淵也。
【訟は。上剛にして下險なり。險(けん)にして健なるは訟なり。訟は孚有りて窒(ふさ)がる。惕(おそ)れて中すれば吉とは。剛來りて中を得るなり。終えんとすれば凶とは。訟は成すべからざるなり。大人を見るに利あり。中正を尚(たっと)ぶなり。大川を涉るに利あらずとは。淵に入るなり。】
師。眾也。貞正也。能以眾正。可以王矣。剛中而應。行險而順。以此毒天下。而民從之。吉。又何咎矣。
【師は。眾(しゅう)なり。貞は正なり。能く眾を以(もち)いて正しければ。以て王たるべし。剛中にして應ず。險を行いて順。これを以て天下を毒して。民之れに從う。吉。また何んの咎あらん。】
比。吉也。比。輔也。下順從也。原筮元永貞。无咎。以剛中也。不寧方來。上下應也。後夫凶。其道窮也。
【比は。吉なり。比は。輔(たすく)るなり。下順從(じゅんじゅう)するなり。原筮して元永貞にして。咎なしとは。剛中なるを以てなり。寧(やす)からざるもの方(まさ)に來たるとは。上下應ずるなり。後夫は凶。其の道窮するなり。】
小畜。柔得位。而上下應之。曰小畜。健而巽。剛中而志行。乃亨。密雲不雨。尚往也。自我西郊。施未行也。
【小畜は。柔位を得て。上下之に應ずるを。小畜と曰う。健にして巽。剛中にして志し行わる。乃ち亨る。密雲(みつうん)して雨ふらず。尚往くなり。我が西郊(せいこう)よりす。施し未だ行われず。】
履。柔履剛也。說而應乎乾。是以履虎尾。不咥人。亨。剛中正。履帝位而不疚。光明也。【履は。柔剛を履むなり。說(よろこ)んで乾に應(おう)ず。ここを以て虎の尾を履む。人を咥(くら)わず。亨る。剛中正にして。帝位を履んで疚(やま)しからず。光明なり。】
泰。小往大來。吉亨。則是天地交。而萬物通也。上下交。而其志同也。內陽而外陰。內健而外順。內君子而外小人。君子道長。小人道消也。
【泰は。小往(ゆ)き大來(きた)る。吉にして亨る。則ち是れ天地交(まじわ)りて。萬物通ずるなり。上下交。りて其の志し同じなり。內陽にして外陰。內健かにして外順い。內君子にして外小人。君子道長じ。小人道消(しょう)すなり。】
否之匪人。不利君子貞。大往小來。則是天地不交。而萬物不通也。上下不交。而天下无邦也。內陰而外陽。內柔而外剛。內小人而外君子。小人道長。君子道消也。
【否の人に匪(あら)ざる。君子の貞に利あらず。大往き小來る。則ちこれ天地交わらずして。萬物通ぜざるなり。上下交わらずして。天下に邦(くに)なきなり。內陰にして外陽なり。內柔にして外剛なり。內小人にして外君子なり。小人道長(ちょう)じ。君子道消(しょう)するなり。】
同人。柔得位得中。而應乎乾。曰同人。同人曰。同人于野。亨。利涉大川。乾行也。文明以健。中正而應。君子正也。唯君子為能通天下之志。
【同人は。柔位を得て中を得て。乾に應じるを。同人と曰う。同人曰く。同人野に于(お)いてす。亨る。大川を涉るに利あり。乾の行(こう)なり。文明以て健。中正にして應ず。君子の正なり。唯だ君子のみ能く天下の志しを通ずとなす。】
大有。柔得尊位。大中而上下應之。曰大有。其德剛健而文明。應乎天而時行。是以元亨。
【大有は。柔尊位を得。大中にして上下これに應ずるを。大有と曰う。其の德剛健にして文明。天に應じて時に行く。ここを以て元いに亨る。】
謙。亨。天道下濟而光明。地道卑而上行。天道虧盈而益謙。地道變盈而流謙。鬼神害盈而福謙。人道惡盈而好謙。謙尊而光。卑而不可踰。君子之終也。
【謙は。亨る。天道下濟(かせい)して光明なり。地道卑くして上り行く。天道は盈てるを虧いて謙に益し。地道は盈(み)てるを變じて謙に流(し)き。鬼神は盈てるを害して謙に福(さいわ)いし。人道は盈てるを惡んで謙を好む。謙は尊くして光り。卑けれども踰(こ)ゆべからず。君子の終りなり。】
豫。剛應而志行。順以動。豫。豫。順以動。故天地如之。而況建侯行師乎。天地以順動。故日月不過。而四時不忒。聖人以順動。則刑罰清而民服。豫之時義大矣哉。
【豫は。剛應じて志し行わる。順以て動くは。豫なり。豫は。順以て動く。故に天地かくの如し。而(しか)るを況(いわ)んや侯(きみ)を建(た)て師(いくさ)を行(や)るをや。天地順うを以て動く。故に日月過たずして。四時忒(たが)わず。聖人順うを以て動けば。則ち刑罰清くして民服す。豫の時義大(おおい)なる哉。】
隨。剛來而下柔。動而說。隨。大亨貞。无咎。而天下隨時。隨時之義大矣哉。
【隨は。剛來って柔に下る。動いて說ぶは。隨なり。大いに亨る貞にして。咎なし。而して天下に隨う時。隨(ずい)時(じ)の義大いなるかな。】
蠱。剛上而柔下。巽而止。蠱。蠱。元亨。而天下治也。利涉大川。往有事也。先甲三日。後甲三日。終則有始。天行也。
【蠱は。上(かみ)剛にして下(しも)柔なり。巽にして止まるは。蠱なり。蠱は。元いに亨りて。天下治まる。大川を涉るに利あり。往きて事有るなり。甲に先だつこと三日。甲に後れること三日。終(おわ)れば始有り。天(てん)行(こう)なり。】
臨。剛浸而長。說而順。剛中而應。大亨以正。天之道也。至于八月有凶。消不久也。【臨は。剛浸(ようや)くにして長ず。說(よろこ)んで順(したが)う。剛中にして應ず。大いに亨る正(ただし)きを以てす。天の道なり。八月に至りて凶有り。消(しょう)すること久しからず。】
大觀在上。順而巽。中正以觀天下。觀。盥而不薦。有孚顒若。下觀而化也。觀天之神道。而四時不忒。聖人以神道設教。而天下服矣。
【大觀(だいかん)上(かみ)に在り。順にして巽。中正以て天下に觀(しめ)す。觀は。盥(かん)して薦(せん)せず。孚あって顒(ぎょう)若(じゃく)たり。下觀(しもみ)て化するなり。天の神道を觀るに。しかも四時(しいじ)忒(たが)わず。聖人神道を以て教えを設けて。天下服す。】
頤中有物。曰噬嗑。噬嗑而亨。剛柔分。動而明。雷電合而章。柔得中而上行。雖不當位。利用獄也。
【頤中(いちゅう)に物有るを。噬嗑と曰う。噬(か)み嗑(あわ)せて亨る。剛柔分(わか)れ。動きて明(あきら)かに。雷電合(あ)いて章(あき)らかに。柔中を得て上(のぼ)り行く。位に當たらずと雖(いえど)も。獄(ごく)を用うるに利あり。】
賁。亨。柔來而文剛。故亨。分剛上而文柔。故小利有攸往。天文也。文明以止。人文也。觀乎天文。以察時變。觀乎人文。以化成天下。
【賁は。亨る。柔來(きた)りて剛を文(かざ)る。故に亨る。剛を分ちて上って柔を文る。故に小しく往く攸有るに利あり。天文(てんぶん)なり。文明以て止まるは。人文なり。天文を觀て。以て時の變を察し。人文を觀て。以て天下を化成す。】
剝。剝也。柔變剛也。不利有攸往。小人長也。順而止之。觀象也。君子尚消息盈虛。天行也。
【剝は。剝なり。柔剛を變ずるなり。往く攸有るに利あらざるは。小人長ずるなり。順にして之に止まる。象を觀ればなり。君子は消息盈虛(えいきょ)を尚(たっと)ぶ。天の行(こう)なり。】
復亨。剛反。動而以順行。是以出入无疾。朋來无咎。反復其道。七日來復。天行也。利有攸往。剛長也。復其見天地之心乎。
【復は亨るとは。剛反(かえ)るなり。動いて順を以て行く。是を以て出入(しゅつにゅう)疾(やまい)なく。朋來(きた)りて咎なし。其の道に反復す。七日にして來復す。天の行なり。往く攸有るに利あり。剛長ずるなり。復は其れ天地の心を見るか。】
无妄。剛自外來。而為主於內。動而健。剛中而應。大亨以正。天之命也。其匪正有眚。不利有攸往。无妄之往。何之矣。天命不佑。行矣哉。
【无妄は。剛外より來りて。內に主(しゅ)たり。動いて健なり。剛中にして應ず。大いに亨るに正を以てす。天の命なり。其れ正に有らざれば眚(わざわい)あり。往く攸有るに利あらず。无妄の往く。何(いず)くにか之(ゆ)かん。天命佑(たす)けず。行かんや。】
大畜。剛健篤實。輝光日新。其德。剛上而尚賢。能止健。大正也。不家食吉。養賢也。利涉大川。應乎天也。
【大畜は。剛健(ごうけん)篤(とく)實(じつ)。輝光(きこう)日に新たなり。其の德。剛上りて賢を尚ぶ。能く健を止む。大正(たいせい)なり。家食(かしょく)せずして吉なるは。賢を養えばなり。大川を涉るに利あり。天に應ずればなり。】
頤貞吉。養正則吉也。觀頤。觀其所養也。自求口實。觀其自養也。天地養萬物。聖人養賢。以及萬民。頤之時大矣哉。
【頤貞(てい)吉(きつ)とは。正を養えば吉なり。頤を觀るとは。其の養う所を觀るなり。自ら口實を求むとは。其の養うところを觀るなり。天地は萬物を養い。聖人は賢を養って。以て萬民に及ぼす。頤の時大いなるかな。】
大過。大者過也。棟橈。本末弱也。剛過而中。巽而說行。利有攸往。乃亨。大過之時大矣哉。
【大過は。大なる者の過ぎるなり。棟橈(むなぎたわ)む。本末弱きなり。剛過ぎて中なり。巽にして說んで行く。往く攸有るに利あり。乃(すなわ)ち亨る。大過の時大いなるかな。】
習坎。重險也。水流而不盈。行險而不失其信。維心亨。乃以剛中也。行有尚。往有功也。天險不可升也。地險山川丘陵也。王公設險以守其國。坎之時用大矣哉。
【習坎(しゅうかん)は。重險(ちょうけん)なり。水は流れて盈(み)たず。險に行きて其の信を失わず。維れ心亨るは。乃ち剛中を以てなり。行けば尚ぶこと有り。往くときは功有るなり。天の險は升るべからざるなり。地の險は山川(さんせん)丘陵(きゅうりょう)なり。王公は險を設けて以て其の國を守る。坎の時用(じよう)大いなるかな。】
離。麗也。日月麗乎天。百穀草木麗乎土。重明以麗乎正。乃化成天下。柔麗乎中正。故亨。是以畜牝牛吉也。
【離は。麗(り)なり。日月は天に麗(つ)き。百穀(ひゃくこく)草木(そうもく)は土に麗く。重明(ちょうめい)以て正に麗く。乃ち天下を化成す。柔中正に麗く。故に亨る。是を以て牝牛を畜うときは吉なり。】
咸。感也。柔上而剛下。二氣感應以相與。止而說。男下女。是以亨利貞。取女吉也。天地感而萬物化生。聖人感人心而天下和平。觀其所感。而天地萬物之情可見矣。
【咸は。感なり。柔上(かみ)にして剛下(しも)なり。二氣感應(かんおう)して以て相い與(くみ)す。止まりて說ぶ。男女(じょ)に下る。是を以て亨る貞しきに利あり。女を取(めと)るに吉なり。天地感じて萬物を化生す。聖人人心(じんしん)を感(かん)して天下和平なり。其の感する所を觀て。天地萬物の情を見るべし。】
恆。久也。剛上而柔下。雷風相與。巽而動。剛柔皆應。恆。恆亨无咎。利貞。久於其道也。天地之道。恆久而不已也。利有攸往。終則有始也。日月得天。而能久照。四時變化。而能久成。聖人久於其道。而天下化成。觀其所恆。而天地萬物之情可見矣。
【恆は。久(きゅう)なり。剛上(かみ)にして柔下(しも)なり。雷風相い與(くみ)す。巽にして動く。剛柔皆(み)な應ずるは。恆。恆は亨る咎なし。貞しきに利あるは。其の道に久しきなり。天地の道は。恆(こう)久(きゅう)にして已(や)まざるなり。往く攸有るに利あり。終れば始め有るなり。日月は天を得て。能く久しく照らして。四時(しいじ)は變化して。能く久しく成る。聖人は其の道に久しくして。天下を化成す。其の恆(ひさ)しき所を觀て。天地萬物の情見るべし。】
遯亨。遯而亨也。剛當位而應。與時行也。小利貞。浸而長也。遯之時義大矣哉。
【遯は亨る。遯(しりぞ)いて亨るなり。剛位(くらい)に當って應ず。時と與(とも)に行くなり。小は貞しきに利あり。浸(ようや)くにして長ずるなり。遯の時(じ)義(ぎ)大いなるかな。】
大壯。大者壯也。剛以動。故壯。大壯利貞。大者正也。正大而天地之情可見矣。
【大壯は。大なる者壯(さか)んなるなり。剛にして以て動く。故に壯(さか)んなり。大壯貞しきに利あるは。大なる者正しきなり。正大(せいだい)にして天地の情見るべし。】
晉。進也。明出地上。順而麗乎大明。柔進而上行。是以康侯用錫馬蕃庶。晝日三接也。【晉は。進なり。明(めい)地上に出ずるは。順にして大明(たいめい)に麗(つ)けり。柔進んで上行(じょうこう)す。是を以て康(こう)侯(こう)用(もっ)て馬を錫(たま)うこと蕃庶(はんしょ)たり。晝(ちゅう)日(じつ)に三たび接(まじ)わるなり。】
明入地中。明夷。內文明而外柔順。以蒙大難。文王以之。利艱貞。晦其明也。內難而能正其志。箕子以之。
【明(めい)地中に入るは。明夷。內文明にして外柔順。以て大難を蒙むる。文王(ぶんおう)之れを以てす。艱貞に利ありとは。其の明を晦(くら)くするなり。內難(ないなん)あって能く其の志しを正す。箕子(きし)之れを以てす。】
家人。女正位乎內。男正位乎外。男女正。天地之大義也。家人有嚴君焉。父母之謂也。父父。子子。兄兄。弟弟。夫夫。婦婦。而家道正。正家而天下定矣。
【家人は。女位(くらい)を內に正し。男位を外に正す。男女正しきは。天地の大義なり。家人に嚴(げん)君(くん)有りとは。父母の謂(い)いなり。父(ちち)父たり。子(こ)子たり。兄(あに)兄たり。弟(おとうと)弟たり。夫(おっと)夫たり。婦(つま)婦たり。而して家道正し。家を正しくして天下定まる。】
睽。火動而上。澤動而下。二女同居。其志不同行。說而麗乎明。柔進而上行。得中而應乎剛。是以小事吉。天地睽。而其事同也。男女睽。而其志通也。萬物睽。而其事類也。睽之時用大矣哉。
【睽は。火動いて上り。澤(さわ)動いて下る。二女同居して。其の志し行(こう)を同じうせず。說んで明に麗(つ)く。柔進んで上り行く。中を得て剛に應ず。是を以て小事には吉なり。天地睽(そむ)いて。其の事同じ。男女睽いて。其の志し通ず。萬物睽いて。其の事を類(るい)す。睽の時用(じよう)大いなるかな。】
蹇。難也。險在前也。見險而能止。知矣哉。蹇利西南。往得中也。不利東北。其道窮也。利見大人。往有功也。當位貞吉。以正邦也。蹇之時用大矣哉。
【蹇は。難なり。險前(まえ)に在るなり。險を見て能く止まる。知(ち)あるかな。蹇は西南に利あり。往きて中を得るなり。東北に利あらず。其の道窮(きわ)まるなり。大人を見るに利あり。往きて功有るなり。位に當って貞(てい)吉(きち)。以て邦を正すなり。蹇の時用(じよう)大いなるかな。】
解。險以動。動而免乎險。解。解利西南。往得眾也。其來復吉。乃得中也。有攸往夙吉。往有功也。天地解。而雷雨作。雷雨作。而百果草木皆甲坼。解之時大矣哉。
【解は。險にして以て動く。動いて險を免(まぬが)るるは。解。解は西南に利あり。往きて眾(しゅう)を得るなり。其れ來り復って吉。乃ち中を得ればなり。往く攸有れば夙(はや)くして吉。往きて功有るなり。天地解けて。雷雨作(おこ)る。雷雨作って。百果草木皆な甲坼(こうたく)す。解の時大いなるかな。】
損。損下益上。其道上行。損而有孚。元吉。无咎。可貞。利有攸往。曷之用。二簋可用享。二簋應有時。損剛益柔有時。損益盈虛。與時偕行。
【損は。下(しも)を損して上(かみ)を益す。其の道上り行く。損して孚有れば。元吉なり。咎なし。貞にすべし。往く攸有るに利あり。曷(なに)をか之(こ)れ用いん。二簋(にき)用て享(まつ)るべし。二簋應(まさ)に時有るべし。剛を損して柔を益すも時有り。損益(そんえき)盈虛(えいきょ)。時と偕(とも)に行う。】
益。損上益下。民說无疆。自上下下。其道大光。利有攸往。中正有慶。利涉大川。木道乃行。益動而巽。日進无疆。天施地生。其益无方。凡益之道。與時偕行。
【益は。上(かみ)を損して下(しも)を益す。民說(よろこ)ぶこと疆(かぎり)なし。上(かみ)よりして下(しも)に下(くだ)る。其の道大いに光(あらわ)る。往く攸有るに利あり。中正にして慶び有ればなり。大川を涉るに利あり。木の道乃ち行わる。益は動いて巽なり。日に進むこと疆なし。天施(ほどこ)し地生(しょう)ず。其の益すこと方(ところ)なし。凡そ益の道。時と偕(とも)に行わる。】
夬。決也。剛決柔也。健而說。決而和。揚于王庭。柔乘五剛也。孚號有厲。其危乃光也。告自邑。不利即戎。所尚乃窮也。利有攸往。剛長乃終也。
【夬は。決(けつ)なり。剛の柔を決するなり。健にして說ぶ。決して和(やわ)らぐ。王庭に揚ぐるは。柔五(ご)剛(ごう)に乘ればなり。孚あって號(さけ)ぶ厲きこと有り。其れ危(あや)うきときは乃ち光(おお)いなり。告ぐること邑(ゆう)よりす。戎(じゅう)に即くに利あらず。尚(たっと)ぶ所乃(すなわ)ち窮(きわ)まるなり。往く攸有るに利あり。剛長じて乃ち終わるなり。】
姤。遇也。柔遇剛也。勿用取女。不可與長也。天地相遇。品物咸章也。剛遇中正。天下大行也。姤之時義大矣哉。
【姤は。遇なり。柔剛(ごう)に遇うなり。女(じょ)を取(めと)るに用うる勿れ。與(とも)に長(なが)くすべからざるなり。天地相い遇って。品物(ひんぶつ)咸(ことごと)く章(あきら)かなり。剛中正(ちゅうせい)に遇う。天下大いに行わるるなり。姤の時(じ)義(ぎ)大いなるかな。】
萃。聚也。順以說。剛中而應。故聚也。王假有廟。致孝享也。利見大人亨。聚以正也。用大牲吉。利有攸往。順天命也。觀其所聚。而天地萬物之情可見矣。
【萃は。聚(しゅう)なり。順にして以て說ぶ。剛中にして應あり。故に聚(あつ)まるなり。王有(ゆう)廟(びょう)に假(いた)るは。孝(こう)の享(まつり)を致すなり。大人を見るに利あり亨。聚(あつ)むるに正を以てすればなり。大牲(たいせい)を用うるに吉。往く攸有るに利あり。天命に順うなり。其の聚まる所を觀て。天地萬物の情(じょう)見るべし。】
柔以時升。巽而順。剛中而應。是以大亨。用見大人。勿恤。有慶也。南征吉。志行也。【柔時を以て升る。巽にして順。剛中にして應あり。是を以て大いに亨る。用て大人見る。恤(うれ)うる勿れ。慶び有るなり。南征して吉とは。志し行わるるなり。】
困。剛掩也。險以說。困而不失其所亨。其唯君子乎。貞大人吉。以剛中也。有言不信。尚口乃窮也。
【困は。剛掩(おお)わるるなり。險にして以て說ぶ。困しんで其の亨る所を失わざるは。其れ唯だ君子か。貞し大人は吉。剛中なるを以てなり。言うこと有れど信じられず。口を尚べば乃ち窮するなり。】
巽乎水而上水。井。井養而不窮也。改邑不改井。乃以剛中也。汔至亦未繘井。未有功也。羸其瓶。是以凶也。
【水に巽(い)りて水を上ぐるは。井なり。井は養って窮まらざるなり。邑を改めて井を改めず。乃ち剛中なるを以てなり。汔んど至らんとして亦(ま)た未だに井に繘(つりいと)せず。未だ功有らざるなり。其の瓶(つるべ)を羸(やぶ)る。是を以て凶なり。】
革。水火相息。二女同居。其志不相得。曰革。巳日乃孚。革而信也。文明以說。大亨以正。革而當。其悔乃亡。天地革而四時成。湯武革命。順乎天而應乎人。革之時大矣哉。【革は。水火相(あ)い息(そく)す。二女同居して。其の志し相い得ざるを。革と曰う。巳(き)日(じつ)にして乃ち孚あり。革(あらた)めてこれを信ずるなり。文明にして以て說び。大いに亨りて以て正し。革めて當り。其の悔乃ち亡ぶ。天地革まって四時(しいじ)成る。湯(とう)武(ぶ)命を革めて。天に順って人に應ず。革の時大いなるかな。】
鼎。象也。以木巽火。亨飪也。聖人亨以享上帝。而大亨以養聖賢。巽而耳目聰明。柔進而上行。得中而應乎剛。是以元亨。
【鼎は。象(しょう)也。木を以て火に巽(い)れ。亨飪(ほうじん)する也。聖人亨(ほう)して以て上帝に享(きょう)し。大いに亨(ほう)して以て聖賢を養う。巽にして耳目(じもく)聰(そう)明(めい)。柔進んで上り行き。中を得て剛に應ず。是を以て元いに亨る。】
震。亨。震來虩虩。恐致福也。笑言啞啞。後有則也。震驚百里。驚遠而懼邇也。出可以守宗廟社稷。以為祭主也。
【震は。亨る。震來りて虩虩(げきげき)たり。恐れて福を致す也。笑言(しょうげん)啞啞(あくあく)たり。後に則(のり)有る也。震は百里を驚かす。遠きを驚かして邇(ちか)きを懼(おそ)れしむる也。出でては以て宗(そう)廟(びょう)社稷(しゃしょく)を守って。以て祭主(さいしゅ)と為るべき也。】
艮。止也。時止則止。時行則行。動靜不失其時。其道光明。艮其止。止其所也。上下敵應。不相與也。是以不獲其身。行其庭不見其人。无咎也。
【艮は。止(し)也。時止(とど)まれば止まり。時(とき)行けば行く。動靜(どうせい)其の時を失わざれば。其の道光明(こうみょう)。其れ止に艮(とど)まるは。其の所に止まる也。上下敵應(てきおう)して。相(あ)い與(くみ)せざる也。是を以て其の身を獲ず。其の庭に行きて其の人を見ず。咎无(な)き也。】
漸之進也。女歸吉也。進得位。往有功也。進以正。可以正邦也。其位剛。得中也。止而巽。動不窮也。
【漸の進むや。女(じょ)の歸(とつ)ぐに吉也。進んで位を得。往きて功(こう)有る也。進(すすむ)に正を以てす。以て邦(くに)を正(ただ)すべき也。其の位(くらい)剛にして。中を得る也。止まって巽(したが)う。動いて窮(きわ)まらざる也。】
歸妹。天地之大義也。天地不交。而萬物不興。歸妹人之終始也。說以動。所歸妹也。征凶。位不當也。无攸利。柔乘剛也。
【歸妹は。天地の大義(たいぎ)也。天地交(まじ)わらざれば。萬物興(おこ)らず。歸妹は人の終始(しゅうし)也。說んで以て動く。歸ぐ所は妹(まい)也。征けば凶とは。位當(あた)らざれば也。利する攸(ところ)无きは。柔剛(ごう)に乘れば也。】
豐。大也。明以動。故丰。王假之。尚大也。勿憂宜日中。宜照天下也。日中則昃。月盈則食。天地盈虛。與時消息。而況於人乎。況於鬼神乎。
【豐は。大(だい)也。明にして以て動く。故に丰(おおい)なり。王之れに假(いた)るは。大を尚(たっと)べば也。憂うる勿れ日中(にっちゅう)に宜しい。宜しく天下を照(てら)す也。日中すれば昃(かたむ)き。月盈(み)つれば食(か)く。天地の盈虛(えいきょ)。時と消息(しょうそく)す。而るを況(いわ)んや人に於(おい)てを乎。況んや鬼神(きしん)に於いてを乎。】
旅。小亨。柔得中乎外。而順乎剛。止而麗乎明。是以小亨。旅貞吉也。旅之時義大矣哉。
【旅は。小(すこ)し亨る。柔外(そと)に中を得て。剛に順う。止まって明に麗く。是を以て小し亨る。旅の貞あれば吉也。旅の時(じ)義(ぎ)大いなる哉。】
重巽以申命。剛巽乎中正而志行。柔皆順乎剛。是以小亨。利有攸往。利見大人。
【重巽(ちょうそん)以て命を申(かさ)ぬ。剛中正(ちゅうせい)に巽(したが)って志し行わる。柔皆(み)な剛に順う。是を以て小(すこ)し亨る。往く攸有るに利あり。大人を見るに利あり。】
兌。說也。剛中而柔外。說以利貞。是以順乎天。而應乎人。說以先民。民忘其勞。說以犯難。民忘其死。說之大。民勸矣哉。
【兌は。說(えつ)也。剛中にして柔外(ほか)なり。說(よろこ)んで以て貞しきに利あり。是を以て天に順って。人に應ず。說んで以て民に先だつときは。民其の勞(ろう)を忘る。說んで以て難を犯すときは。民其の死を忘る。說(えつ)の大いなる。民勸(すす)む哉。】
渙。亨。剛來而不窮。柔得位乎外而上同。王假有廟。王乃在中也。利涉大川。乘木有功也。
【渙は。亨る。剛(ごう)來りて窮(きわ)まらず。柔位を外に得て上同(じょうどう)す。王有(ゆう)廟(びょう)に假(いた)るは。王乃(すなわ)ち中に在る也。大川を涉るに利あるは。木に乘(の)って功有る也。】
節。亨。剛柔分。而剛得中。苦節不可貞。其道窮也。說以行險。當位以節。中正以通。天地節而四時成。節以制度。不傷財。不害民。
【節は。亨る。剛柔分(わか)れて。剛中を得る。苦節(くせつ)貞にすべからざるは。其の道窮(きわ)まれば也。說(よろこ)んで以て險(けん)に行き。位に當たって以て節し。中正にして以て通ず。天地節して四時(しいじ)成る。節するに制度を以てすれば。財を傷(やぶ)らず。民を害(そこな)わず。】
中孚。柔在內而剛得中。說而巽。孚。乃化邦也。豚魚吉。信及豚魚也。利涉大川。乘木舟虛也。中孚以利貞。乃應乎天也。
【中孚(ちゅうふ)は。柔內に在りて剛中(ちゅう)を得たり。說んで巽うは。孚(ふ)なり。乃ち邦(くに)を化(か)する也。豚魚にして吉なるは。信(しん)豚魚に及べば也。大川を涉るに利あるは。木に乘(の)り舟虛(むな)しければ也。中孚にして以て貞しきに利あり。乃ち天に應ずる也。】
小過。小者過而亨也。過以利貞。與時行也。柔得中。是以小事吉也。剛失位而不中。是以不可大事也。有飛鳥之象焉。有飛鳥遺之音。不宜上宜下。大吉。上逆而下順也。【小過は。小なる者過(す)ぎて亨る也。過ぎて以て貞しきに利あるは。時と行う也。柔中を得て。是を以て小事(しょうじ)には吉也。剛位(くらい)を失して中ならず。是を以て大事に可(か)ならざる也。飛鳥の象有り。飛鳥之(こ)れが音(ね)を遺(のこ)す。上るに宜しからず下るに宜し。大吉とは。上ることは逆にして下ることは順なれば也。】
既濟。亨。小者亨也。利貞。剛柔正而位當也。初吉。柔得中也。終止則亂。其道窮也。【既濟は。亨る。小なる者亨(とお)る也。貞しきに利あるは。剛柔正(せい)にして位當(あた)れば也。初め吉なるは。柔中を得れば也。終りに止まれば亂(みだ)る。其の道窮(きわ)まる也。】
未濟。亨。柔得中也。小狐汔濟。未出中也。濡其尾。无攸利。不續終也。雖不當位。剛柔應也。
【未濟は。亨る。柔中を得れば也。小狐(しょうこ)汔(ほと)んど濟(わた)るは。未だ中を出でざれば也。其の尾を濡らす。利する攸(ところ)无。續(つづ)いて終(お)えざれば也。位に當らずと雖(いえど)も。剛柔應(おう)ずる也。】